ある業務工程や顔認証、文字情報の撮影など、AIによる画像認識技術は、近年さまざまな分野で活用されており、業務の効率化や精度の向上に貢献しています。
この記事では、画像認識技術の概要をはじめ、主な技術である機械学習とディープラーニングを簡単に解説します。また、各業界における具体的な活用事例を10項目紹介しますので、AIの導入を検討する際の参考としてください。実際の導入事例を踏まえて、実業務における導入イメージをさらに膨らませてみましょう。
画像認識とは
画像認識とは、コンピュータが画像データを解析し、特定のパターンや特徴を識別する技術です。一定の条件に基づいた物体や文字、顔などを自動で検出して分類できるため、幅広い分野で活用が進んでいます。近年はAIの進化により、ディープラーニング(深層学習)が画像認識において重要な役割を果たしており、より高精度で効率的な識別が可能になっています。
例えば、医療分野では、診断支援、製造業では品質管理の自動化に利用されています。これらはコスト削減やヒューマンエラーの防止、作業効率および精度の向上などにつながっています。
画像認識の主な手法
画像認識の手法は、主に機械学習とディープラーニングの2つがあります。どちらも大量データを用いて学習を行いますが、処理の手法やアルゴリズムなどが異なります。ここではそれらの概要を違いに着目して解説します。
機械学習
機械学習は、膨大なデータを基にAIがパターンを学習する手法です。人間が手動で定義した特徴をAIが忠実に認識する点が特徴です。画像認識に機械学習を用いる場合は、まず事前に学習してほしい特徴的な画像データを選んでおき、分類すべきルールもあらかじめ決めておきます。機械学習が学習を行う際は、AIが画像やルールを読み込んでそれに従い分類や識別を行います。
例えば、工場の製造ラインで製品の外観検査を行う際に、AIが画像データを元に不良品を自動的に検知することができます。この技術により、従来は目視で行っていた検査作業が効率化され、品質向上に貢献しています。
ディープラーニング
ディープラーニングは、ニューラルネットワークという人間の脳を模倣したアルゴリズムを用いる手法です。ディープラーニングは機械学習の一種ではあるものの、事前にルールを設定する必要がなく、AI自体がデータをもとにパターンを自動で学んでいく点が特徴です。
画像認識にディープラーニングを活用する場合、大量の画像データを入力してAIが自ら特徴を抽出して学習します。例えば、医療分野でディープラーニングを用いると、X線やMRI画像から異常箇所を自動で検出することが可能です。これにより、従来の手動検査に比べ、早期診断や精度の向上に大きく役立ちます。
AIによる画像認識の活用事例10選
ここでは、AIによる画像認識が各業界で活用されている事例について紹介します。
- 東海旅客鉄道株式会社:ワンマン運転の安全性向上
- 住友電装株式会社:改善活動の高度化
- JFEスチール株式会社:安全な職場づくりのサポート
- 株式会社ユナイテッドアローズ:ショッピング体験の満足度向上
- 株式会社そごう・西武:在庫管理デジタル化
- 鹿児島市立天文館図書館:蔵書点検の効率化
- 株式会社貫水:生産品質向上と業務効率化
- 戸田建設株式会社:建設現場での安全性向上
- 東亜建設工業株式会社:航行監視の効率化・負担軽減
- カルビー株式会社:改善施策の検討や施策後の陳列状況のチェックの実現
東海旅客鉄道株式会社:ワンマン運転の安全性向上
東海旅客鉄道株式会社は、ワンマン運転における運転士の負担軽減と安全性の向上を目指して、画像認識技術を導入しました。従来のワンマン運転では、運転士が目視で安全確認を行い、ホーム上の状況を直接確認してドア操作を行っていました。
これに対して、4両編成の車両側面にカメラを設置して、AIによる画像認識技術を行う安全確認支援装置を搭載しました。この装置では、さまざまな時間帯や天候で撮影したデータを事前に学習しています。
カメラはホーム上の乗客や物体の動きをリアルタイムで監視し、ドアが閉まってから列車に人が接近するなどの異常や危険が検知された際には、運転士に警報が送られます。これを受けて運転士はモニターを通してホームの状況を確認しながら列車を停止させるのです。このシステムにより、従来の目視だけでの確認に比べて安全性が大幅に向上しました。
参考:315系4両編成でのワンマン運転の実施及び 画像認識技術を活用した安全確認支援装置の搭載
住友電装株式会社:改善活動の高度化
住友電装株式会社では、製造現場における改善活動の効率や効果を高めるために、AIによる動画解析の導入を検討してきました。改善活動のスピード向上と改善スキルのばらつきの排除を排除するために、自社で画像認識ソフトウェアOllo Factory開発を行い、社内に採用しています。
AIは過去のデータやリアルタイムの映像を基に分析を行い、人の目では捉えられない微細な問題も検出可能です。Ollo Factoryは、あらかじめ製造現場を一定時間撮影しておくと、AIが自動で現場の問題点の候補を自動的に抽出します。
担当者は、現場に張り付くことなく気になる現場を撮影するだけで改善すべき箇所がわかりやすくなるため、忙しい作業スタッフでも手軽に改善活動に取り組めるようになりました。これにより、業務効率化と品質向上が同時に実現されました。
参考:Ollo Factoryが住友電装株式会社に採用され、グローバル展開を開始
JFEスチール株式会社:安全な職場づくりのサポート
JFEスチール株式会社では、製鉄所における安全推進を目的として、AIが作業員の動作をモニタリングし、危険な行動や異常な状況を自動的に検知するシステムを構築しています。
製鉄所の工場内は、照明条件や装置、作業者の姿勢が多種多様であり、画像を用いた人物検知が困難でした。そこで、ディープラーニングを用いて大量の人物画像の学習を行いました。そのうえで、立ち入り禁止エリアの特定を行い、AIにより人が立ち入り禁止エリアに入ったかどうかを正しく認識する技術を確立したのです。
もし作業者が立ち入り禁止エリアに誤って進入した場合には、AIが警報を発したうえでラインを自動停止することができます。この画像認識技術により、人手をかけずに作業経験の少ない社員でも安全に働けるように作業中の事故の予防が可能です。
参考:国内業界初となるAI画像認識による安全行動サポート技術の導入について
株式会社ユナイテッドアローズ:ショッピング体験の満足度向上
株式会社ユナイテッドアローズは、EC向け画像認識AIサービス「popIn Action」内にAI画像認識技術を用いた「類似アイテム検索機能」を搭載することで、ECサイトでのショッピング体験の向上を図っています。
具体的には、ユーザーが「UNITED ARROWS LTD. ONLINE STORE」サイト内の商品を閲覧すると、AIが閲覧中の商品に類似した商品を検索して、似ている商品の一覧を作成します。
この機能により、顧客は自身の好みに近い商品を短時間で発見でき、購入までの時間を短縮できます。なお、この技術を導入する場合はフロントエンドのデザイン変更がほとんど必要ありません。そのため、顧客からするとサイトリニューアルに伴い新しいGHIに戸惑うことなく、快適にほしい商品にたどり着くことができます。
参考:EC向け画像認識AIサービス「popIn Action」、 ㈱ユナイテッドアローズが展開する「UNITED ARROWS LTD. ONLINE STORE」へ 提供開始
株式会社そごう・西武:在庫管理デジタル化
株式会社そごう・西武は、AI画像認識技術を活用し、単品在庫管理のデジタル化を実現しました。これは「実店舗とECサイトの在庫の一元管理(OMO化:Online Merges with Offline)」の取り組みのひとつです。
従来、諸国銘菓、名産売場ではJANコードによる商品管理が完全にはできませんでした。担当者によって発注精度がばらつく、発注そのものに時間がかかる、ECと連携できないなどの課題が挙げられていたのです。
画像認識AIを組み込んだ在庫管理業務アプリの導入により、従来手作業で行っていた在庫確認や商品棚卸の自動化を図っています。実証実検によると、対象商品の紙台帳管理が不要となり、さらに発注や検品、納品にかかる作業時間が33%削減できました。
今後は、売り切れや在庫不足の予測や、ECサイトとのさらなる連携強化を目指しています。
参考:店頭在庫のOMO化・AI発注を目指して在庫管理デジタル化の取り組みを開始
鹿児島市立天文館図書館:蔵書点検の効率化
鹿児島市立天文館図書館では、セルフ貸出機にAIによる画像認識技術を搭載して、蔵書点検の効率化を図っています。
従来、蔵書の確認作業は手作業で行っていました。これに対して、セルフ貸出機にAI蔵書管理サポートサービス「SHELF EYE(シェルフアイ)」を導入することで自動化が図れたのです。蔵書の点検にはICタグを用いる方法もありますが、AI画像認識を用いることでICタグを用いる場合と比べて導入コストが約半分になりました。
本の背表紙画像の読み取りは複数の本について同時に行うことができるので、貸出の効率化にもつながります。AI蔵書管理サポートサービスの運用を開始した結果、初月の貸出方法のうち、セルフ貸出機の利用が70%、従来どおり有人カウンターを利用した貸出方式が30%となり、貸出担当者の負担を低減する効果が得られました。
参考:公共図書館初、鹿児島市立天文館図書館が画像解析AIによる蔵書点検・セルフ貸出システムを導入
株式会社貫水:生産品質向上と業務効率化
株式会社貫水では、「画像認識AIを活用した不良品排除システム」を試験導入して、生産ラインの品質向上と業務効率化を目指しています。
これは、画像認識AIによる不良品検出システムと、不良品の自動排除装置を組み合わせたもので、まずAIに不良品データを学習させています。製造ラインの情報をバックライト、カメラ、レーザーセンサーを用いて取得し、不良検知システムを搭載したパソコン上で画像解析を行います。もし画像の解析結果からAIが不良品を検知した場合には、AIが排除装置のモーターを起動させ、不良品の排除を行うという仕組みです。
AIが不良品を自動的に判断して排除までを行うため、人間の目では見逃しがちな不具合を確実に発見することができます。これにより、需要増に対応しつつ不良品の流出の防止が図れます。
参考:都築電気、株式会社貫水に「画像認識AIを活用した不良品排除システム」を試験導入
戸田建設株式会社:建設現場での安全性向上
戸田建設株式会社では、建設現場の安全性を高めるためにAI画像認識技術を用いた「遠赤外線カメラを用いた人物検知システム」を導入しました。
建設機械と作業員の接触は重篤な災害となる可能性があるため、常に監視が必要です。しかし夜間やトンネル坑内などの光が十分に届かない場所や通信環境が十分ではない場所などの場合、可視光カメラだけでは十分な安全管理ができませんでした。
トンネル工事で撮影した画像をディープラーニングで学習して、条件の悪い場所でも人物と人物までの距離が高精度に推定できるようになりました。さらに、通信環境の整備が難しい場所でもリアルタイムに応答できる仕組みを整え、建機と作業員までの距離に応じて、警報を出す仕組みを構築したのです。この技術により、事故を未然に防ぎ、安全管理の強化に大きく寄与しています。
参考:戸田建設の「人物検知システム」に「画像認識エッジソリューション」が採用され、建設現場での安全性向上に貢献
東亜建設工業株式会社:航行監視の効率化・負担軽減
東亜建設工業株式会社は、AI画像船舶認識技術を港湾工事に試験導入して船舶監視の実用性を検証しました。
従来利用していた航行支援システムは、高性能カメラとGNSS(汎地球測位航法衛星システム)端末、AIS(自動船舶識別装置)、船舶レーダーなどで構成されていました。大型船をAIS、小型船を船舶レーダーで監視していたものの、AISの情報更新には遅れがあり、船舶レーダーでは小型船の検知精度が低いことから、より正確な監視が求められていたのです。
新しく試験的に導入したAI画像船舶認識技術では、海上の映像を4Kカメラで撮影しています。この高精細な映像をもとにAIが解析を行い、大型船・小型船の船種を自動識別します。これにより、一般船舶や作業船を高精度に監視することができます。船舶の動静をリアルタイムで把握できるため、操船者の負担軽減と安全性向上に貢献しています。
参考:人工知能(AI)の画像認識技術を利用した船舶監視システムを試験導入
カルビー株式会社:改善施策の検討や施策後の陳列状況のチェックの実現
カルビー株式会社では、AI画像認識技術を搭載した「店頭棚割画像解析サービス」を活用して、店舗での商品の陳列状況をリアルタイムで監視しています。これは、小売店舗の売場商品棚をスマートフォンのカメラで撮影することで、商品の陳列状況を高精度に解析する仕組みです。
商品を棚のどの位置にいくつ陳列するかが売り上げに直結するため、AIが棚の画像を分析して、商品の配置や売れ行きに基づき、最適な陳列方法の提案を行います。これにより、従来の手作業による陳列チェックが不要となり、業務の効率化が実現しました。
また、メーカー側でも棚の情報をタイムリーに把握できるため、AIの分析結果をもとにした改善施策の検討も行われており、営業活動の確実なPDCAの実現にもつながっています。この技術は、店頭での販売戦略の精度を大幅に向上させる役割を果たしています。
まとめ
AIによる画像認識技術は、業務効率化や安全性向上を目指して幅広い分野で導入が進んでいます。活用事例で紹介したとおり、長期的な視点でみると高い導入効果が見込めるのです。しかし、画像認識の仕組みの開発には一定の知見が必要となるため、専門家のサポートがあると最短経路で導入が目指せます。
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