AIを経済活動に利用する企業が増えていますが、その中でも需要予測AIを活用している事例も見られています。需要予測では経済活動のあらゆる面でプラスの効果が期待できますので、本記事ではAIによる需要予測の代表的な活用事例を10点ご紹介して、需要予測の手法についても詳しく解説します。
需要予測は仕入れや在庫管理など販売計画の立案だけでなく、人員配置の最適化などの業務効率化にも役立ちますので、ぜひご覧ください。
目次
- 1 需要予測とは
- 2 需要予測の手法
- 3 AIによる需要予測の活用事例10選
- 3.1 ヤマエ久野株式会社:作業時間の大幅短縮
- 3.2 株式会社トリドールホールディングス:店舗マネジメント業務の負担削減
- 3.3 中部薬品株式会社:店舗在庫量の圧縮・適正化と商品回転率の向上
- 3.4 丸井産業株式会社:全社的な効率化やリードタイム短縮、輸送費低減
- 3.5 株式会社ライフコーポレーション:発注作業時間の削減
- 3.6 サントリーホールディングス株式会社:社会環境の変化対応と業務負荷削減
- 3.7 旭食品株式会社:業務効率化と食品ロス削減
- 3.8 花王株式会社:大量生産・大量消費からの脱却
- 3.9 株式会社Jリーグ:チケットの適正価格の販売促進や不正転売の防止
- 3.10 株式会社バローホールディングス:平均93%という高精度の予測を実現
- 4 まとめ
需要予測とは
需要予測とは、過去のデータを活用して商品やサービスの将来的な需要を予測することです。予測結果をもとにした販売活動を立てることによって、仕入れや人員配置の最適化が期待できます。そのため、ビジネスにおいて業務効率化やリスク低減などが実現できることから、導入する企業が増えているのです、
特に大量の製品を保管したり日持ちしない製品を仕入れたりする企業にとっては、在庫リスクを減らせることから人気が高いです。従来の管理方法では管理にコストがかかるだけでなく、場合によっては製品を廃棄する事態もありましたが、需要予測システムを導入したことによって在庫量の適正化を実現して無駄のない経営を行えるようになったケースも見られているのです。
需要予測の手法
需要予測の主な手法には、以下の4つが挙げられます。
- 回帰分析法
- 移動平均法
- 指数平滑法
- 加重移動平均法
それぞれの特徴について詳しく解説します。
回帰分析法
回帰分析法とは、収集したデータの中から因果関係がある数値の関係性を算出して、その結果をもとに需要予測する手法です。たとえば顧客数や販売コスト、天候などが重視されるケースが多いです。
実績と関係性の深い要素を見つけられるため、それぞれの影響度合いに応じた対策を立てられるメリットがあります。また優先度の調整もできるため、ビジネスに活用しやすいとされています。
移動平均法
移動平均法とは、一定期間におけるデータの平均値を割り出して得た予測値から需要予測を行う手法です。移動平均法では月ごとの売上の平均などを把握できますので、販売戦略の最適化に役立つメリットがあります。
しかし、販売活動で新しいデータが入るたびに計算しなければならないため、データの種類などが多い場合には自動化ツールを用いる必要があるでしょう。
指数平滑法
指数平滑法とは、過去の実績と予測値から将来的な需要予測を行う手法です。古いデータほど重要性が減少しますので、新しいデータの傾向が結果に反映されやすくなっています。
ただし、指数平滑法では過去のデータを同条件とみなしますので、季節や流行などを考慮しません。そのため季節やトレンドを意識したファッションなどには不向きと言えるでしょう。
加重移動平均法
加重移動平均法は移動平均法の一種であり、最新の需要変動を算出する特徴があります。移動平均法の中でも新しいデータを利用するため、トレンドの分析に役立ちます。
また特定のデータにおいて重要性を持たせたい需要予測に向いている手法であり、たとえば購買履歴が多い顧客データに重みを付けたい場合などに使われるケースが多いです。
AIによる需要予測の活用事例10選
近年では、AIを使った需要予測を活用している企業が多く見られます。その中でも代表的な活用事例である以下の10選をご紹介します。
- ヤマエ久野株式会社:作業時間の大幅短縮
- 株式会社トリドールホールディングス:店舗マネジメント業務の負担削減
- 中部薬品株式会社:店舗在庫量の圧縮・適正化と商品回転率の向上
- 丸井産業株式会社:全社的な効率化やリードタイム短縮、輸送費低減
- 株式会社ライフコーポレーション:発注作業時間の削減
- サントリーホールディングス株式会社:社会環境の変化対応と業務負荷削減
- 旭食品株式会社:業務効率化と食品ロス削減
- 花王株式会社:大量生産・大量消費からの脱却
- 株式会社Jリーグ: チケットの適正価格の販売促進や不正転売の防止
- 株式会社バローホールディングス:平均93%という高精度の予測を実現
それぞれの活用事例について詳しく解説します。
ヤマエ久野株式会社:作業時間の大幅短縮
ヤマエ久野株式会社は食品や酒類などを扱う卸売業者であり、2024年4月に需要予測AIによって在庫量を適切に管理して自動発注を行うシステムを導入しました。本システムは、株式会社日立製作所の「Hitachi Digital Solution for Retail/需要予測型自動発注サービス」を応用して開発されました。
同社は様々な顧客向けの商品を扱うため需要予測が難しく、システムを導入しても効果は期待できないと考えられていました。しかし、本システムの導入開始後わずか2ヶ月で熟練の担当者が約3時間かけていた発注の業務時間を約1時間半に短縮でき、作業時間の大幅な短縮に成功したのです。
今後は本システムによって算出されたデータを活用したサプライチェーンの最適化や発注作業における生産性の向上を目指しています。また仕入れ先からの入荷回数や数をコントロールして倉庫における業務を効率化することで、物流や運送のドライバー不足の問題への対応も予定しています。
参考:ヤマエ久野と日立が協創、AI需要予測自動発注で作業時間を大幅短縮
株式会社トリドールホールディングス:店舗マネジメント業務の負担削減
株式会社トリドールホールディングスは讃岐うどんの専門店である「丸亀製麺」などの飲食店を全国展開しており、
グローバルフードカンパニーへの成長を目指して積極的なDX化 に取り組んでいます。そこで富士通のAI 需要予測ソリューション「Fujitsu Business Application Operational Data Management & Analytics 需要予測SaaS」を導入しました。
富士通のODMA需要予測は、複数の需要予測モデルを組み合わせて最適な予測を行うAIソリューションであり、予測精度に優れています。店舗別日別の客数と販売数予測および店舗別時間帯別の客数予測によって、ワークスケジュールの作成や食材発注など作業を最適化できました。また一連の作業を自動で行える機能から、店舗マネジメント業務の大きな負担削減につながったのです。
この結果から、同社では丸亀製麺のすべての店舗でODMA需要予測を導入することを決定しました。また水道量および電力などのエネルギー利用の最適化や食材廃棄ロスやの削減も実現できていることからり、他業態や海外展開にも応用することも検討しています。
参考:富士通のAI 需要予測ソリューションにより店舗マネジメント業務・エネルギー利用を最適化
中部薬品株式会社:店舗在庫量の圧縮・適正化と商品回転率の向上
中部薬品株式会社は、医薬品を扱うドラッグストア・調剤薬局チェーン「V・drug」の運営企業です。国内400ヶ所のすべての店舗に需要予測AIによる「自動発注システム」を導入しており、2023年8月から稼働を開始しています。
従来の業務フローでは発注や在庫管理はベテランの経験や勘などに頼る部分が大きく、在庫リスクを招く点が懸念されていました。また当時使っていたシステムでは予測精度の低さや日持ちしない加工食品などが対象外である点も課題だったのです。
しかし、本システムの導入と自社が保有していた棚割システムと連携させたことから、AIによる在庫管理機能によって店舗在庫量の圧縮・適正化と商品回転率の向上を実現するとともに、発注作業にかける時間を1週間で約600時間も削減したのです。また自動発注率を全体的に従来比115%まで向上させることにも成功しており、業務効率化にもつながっています。
今後は対象商品の30日先までの販売予測データを利用して物流在庫センターにおける在庫の最適化を計画しており、店舗への配送遅延を防止する施策も検討しています。
参考:AIによる「需要予測型自動発注システム」を中部薬品全店舗に導入
売り場利益の最大化をめざした店舗在庫量の圧縮・適正化と商品回転率向上に寄与
丸井産業株式会社:全社的な効率化やリードタイム短縮、輸送費低減
丸井産業株式会社は建設資材の開発や製造、販売をトータルに担う建材メーカーであり、全国83ヶ所の営業所と東西の物流センター2拠点から業界屈指のネットワークを駆使しています。しかし、製品の需要は全国の建設動向や競合他社など様々な状況に左右されるため予測が難しい課題を抱えていました。特に物流センターの2拠点化を決めた時には、社内外から在庫リスクを懸念する声が多く見られたのです。
そこで同社は需要予測にもとづく需給・生産計画から、資材調達や生産、物流に至るまでの一連の業務をシステムから整備することで、全社的な効率化やリードタイム短縮、輸送費低減を図ったのです。そのために富士通グループが開発した需要予測AI「ODMA」などのシステムを使って需給計画を構築するようになりました。そしてAIの予測による生産計画の最適化によって、必要な量だけ部材を調達して生産して迅速に配送するという業務フローが整備され、業務全体の効率化とともに顧客満足度の向上にもつながったのです。
またAIの導入によってそれぞれの部門におけるシステムが連携されたことで、発注や生産指示などの作業がほぼ自動化されました。そのため従業員は顧客の課題把握や新たなソリューション提案に向けられるようになったことから、顧客への付加価値向上につなげていく予定となっています。
参考:AIによる需要予測から調達、生産、在庫管理、物流まで
基幹業務システムのモダナイゼーションにより、全社的な効率化やリードタイム短縮、輸送費低減などを実現
株式会社ライフコーポレーション:発注作業時間の削減
株式会社ライフコーポレーションは首都圏や近畿圏に展開するスーパーであり、主に生鮮食品や一般食品を販売しています。同社では2018 年からシステムインテグレーターであるBIPROGY株式会社と共同でAIの研究を行っており、 AI 需要予測自動発注システムである「AI-Order Foresight」を開発して店舗での実証を進めています。
以前からドライグロサリー(冷蔵不要の⾷品)を対象とする自動発注システムは導入していました。しかし、販売期間が短い牛乳などに対する⾼精度な自動発注システムの導入には⾄っておらず、従業員が毎日発注作業に多大な時間をかけていました。
そこでAI-Order Foresightによる需要予測を用いることで、牛乳などの製品の発注作業も自動化して業務時間の削減を実現したのです。今後もBIPROGY株式会社と協働して、業務自動化を推進できる環境の構築を目指しています。また業務時間を⾼度な店舗運営に注⼒させて、お客様満⾜度の向上や従業員の働きやすい環境の構築を行う予定です。
参考:共同開発の AI 需要予測自動発注システムをライフ全店に導入
サントリーホールディングス株式会社:社会環境の変化対応と業務負荷削減
サントリーホールディングス株式会社とは、主に酒類や清涼飲料水、食品などを取り扱う大手メーカーです。近年では国際物流の混乱による原材料の輸入遅延やコロナ禍における消費者の行動や趣向の変化など様々な社会環境の変化が見られており、このような事態に対応するために需給業務の負荷を削減する目的でAIを導入しました。
導入にあたっては従業員の業務をAIに代行させるのではなく、協業することを理念として掲げました。具体的にはAI予測における根拠や実績との違いの提示、それらの情報をもとにした従業員によるAI予測の修正から業務プロセスを改善したのです。
その結果、約6,000時間/年の需給業務時間の削減に成功しており、需給業務比率も約75%から約50%となっていることからAI活用による需給改革を実現しました。今後は社内で蓄積しているデータをAIに学習させて、予測精度の向上やさらなる業務工数削減を目指しています。
参考:需給業務における戦略立案・推進プロセスへのシフトを実現するため、需要予測は新たにAIを活用。ヒトとデジタルテクノロジーの融合により、社会環境の変化対応と業務負荷削減を同時に実現。
旭食品株式会社:業務効率化と食品ロス削減
旭食品株式会社は、加工食品や冷凍食品などの卸売業を行っている企業です。発注や在庫管理をスムーズに行うために、2021 年 9 月から独自のアルゴリズムによって需要を予測して適正な発注量や在庫管理を行うシステムを稼働させました。
以前は小売店からの注文やメーカーへの発注は、熟練担当者が経験やノウハウをもとに行っていましたが、属人的な作業であったことからシステムを活用した革新が求められていました。また返品による食品ロスも社会的な課題となっていたのです。
そこで需要を予測した上で自動発注を行うシステムを導入したところ、熟練担当者の発注作業を約 4 時間から約 30 分まで削減しただけでなく、返品を最大約 3 割まで低減することに成功して、業務効率化と食品ロスの削減を実現したのです。
DX化の一環として需要予測の導入拠点数を増やしていき、入荷や需要の予測によってトラックの積載効率の向上や配車によるコスト削減を図る予定となっています。
参考:旭食品と日立が協創、需要予測型自動発注で業務効率化と食品ロス削減
花王株式会社:大量生産・大量消費からの脱却
花王株式会社は主に洗濯用洗剤や化粧品などの製造・販売を行っているメーカーであり、「ハイジーン&リビングケア」「ヘルス&ビューティケア」「ライフケア」「化粧品」の4つの事業を展開しています。同社では昨今のサプライチェーンの変化や消費者ニーズの多様化に伴う多品種少量生産の必要性から、2021年にDX化を推進する目的のもと社内からITに詳しいメンバーを集めて「デジタルイノベーションプロジェクト」を新設しました。
以前から需要予測に市販ソリューションの活用や独自プログラムの作成などを実施していましたが、新製品では精度が低い課題を抱えていました。そこでAIを活用した新製品の需要予測を行うために、「DataRobot」を導入したのです。
DataRobotによる需要予測では、「ヘルス&ビューティケア」の新製品について従来の方法と比較して予測精度が約40%改善できたとされています。また他の事業の製品にも活用して、大量生産・大量消費からの脱却を目指しています。
この結果から、AIによる予測結果を製品の企画や生産計画など様々な場面でフィードバックできるような体制を構築していく予定です。また予測精度を向上させるためにSNSなどのデータの活用も検討しています。
参考:需要予測の精度向上に向けてDataRobotを導入。 大量生産・大量消費を脱却し「売れる分だけ作る」を実現
株式会社Jリーグ:チケットの適正価格の販売促進や不正転売の防止
株式会社Jリーグとは、公益社団法人日本プロサッカーリーグが運営する団体です。プロサッカーの試合の放映権や商品化権などの管理、スポンサーやパートナー企業からの協賛金の事業配分などを行っています。
同社ではチケットの適正価格の販売促進や不正転売の防止を目的として、需要予測AIを使ったダイナミックプライシングによる販売を行っています。ダイナミックプライシングとは、試合日程や席種、市況などのビッグデータ分析をもとに試合ごとの需要予測を行う仕組みです。
このように試合ごとの需要を予測してAIで価格を決める方法から、観客数の増加を見込みつつ収益の最大化を図っているのです。またそれぞれの試合ごとにチケットが適正価格で販売されるようになったことから、高額な不正転売の防止にも役立っています。
参考:価格変動制「ダイナミックプライシング」によるチケット販売を実施いたします。
株式会社バローホールディングス:平均93%という高精度の予測を実現
株式会社バローホールディングスはスーパーやドラッグストア、ホームセンターなど様々な事業を展開している企業であり、店舗への来店客数から予測を行うためにソフトバンクと一般財団法人日本気象協会が共同開発したAIによる需要予測サービス「サキミル」の実証実験を開始しました。
以前にも需要予測を試験的に行っていましたが、商品を対象とした予測であったため業種ごとによる商品の売れ方の違いや膨大な商品数による需要への予測コストの課題からうまくいきませんでした。そこで客数に対する需要予測システムである「サキミル」を導入したのです。
サキミルでは客数と大きな関連性を持つ気象データを踏まえた予測を行い、日本気象協会からのデータから予測を行うことから高い正確性を誇ります。グループ企業である中部薬品株式会社で2021年3月に実証実験を行ったところ、平均93%という高い精度の予測を実現したのです。
将来的には来店予測から製造計画を最適化した上で必要な量だけの材料を確保して、欠品や廃棄を削減するようにデータを活用する予定です。また予測には気象データだけでなく人流統計データも利用していますので、人の動きにおける柔軟な対応にも期待しています。
参考:気象データも活用した来店予測サービス 「サキミル」により、平均93%の客数予測を実現
まとめ
需要予測は無駄のない発注作業や余剰在庫を避ける機能から、多くの企業に注目されています。しかし、いざ導入を検討しようとしても新しいシステムを構築する必要があるケースが多いので、悩んでしまうことも多いでしょう。
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