チャットボットは、比較的導入ハードルが低いため、定型業務の負荷軽減や業務効率化、顧客や社員の満足度向上を目指して導入する企業が増えています。
また、生成AIと組み合わせたチャットボットによりさらに利便性が向上しているのです。
本記事では、チャットボットを導入する流れについて詳しく解説しています。チャットボットの導入にかかる期間や失敗しないためのポイント、具体的な導入事例もあわせて紹介しているため、ぜひ参考にしてください。
チャットボットを導入する流れ
チャットボットを導入する流れは大きく以下のとおりです。自社の要件定義をまとめて機能や料金などを比較するとスムーズに導入できます。
また、最初から完璧な環境構築を行うのではなく、少しずつPDCAを回せる体制を準備しておくのがおすすめです。
- 社内で確認できることを事前に行う
- 導入目的を明らかにする
- チャットボットを設置する場所を決める
- チャットボットに求める機能を洗い出す
- チャットボットの導入担当者を決める
- チャットボットツールの比較をする
- 各ベンダーに相談してデモや無料トライアルを利用する
- ベンダーと詳細を詰める
- 社内運用体制を確保する
- シナリオ構築やFAQの作成をする
- テスト運用をする
- チャットボットを導入する
社内で確認できることを事前に行う
準備ができていなくても対応可能というチャットボットの開発会社は多いものの、自社に最適なチャットボットを導入するためには、まず社内の状況確認が欠かせません。
別の部署で導入事例がないかを確認する
社内の情報収集は、担当部門だけではなく全社的に行うことが重要です。場合によっては顧客向けのチャットボットのシナリオについて、営業戦略や広報の表現、法務的な観点から調整が必要となるかもしれません。
また、カスタマーサポートや営業、マーケティングなど、関連が深い他部門で、すでにチャットボットが導入されている場合があります。
仮に、自部門から見て使い勝手が悪くても、各部門の用途など導入目的を整理して改修を行えば、より使いやすいチャットボットの構築を目指す余地があります。
予算を確認する
チャットボット導入には初期費用や月額料金がかかります。費用の相場を把握し、自社の予算内でどの程度のシステムを導入できるかを検討しておきましょう。
また、運用にかかる費用も踏まえ、長期的な視点から費用対効果を考えることが重要です。
導入の期限を決めておく
市場の変化への対応や競争優位性の確保など、事業戦略を考慮して導入時期を検討しておきましょう。
チャットボットの導入には一定の開発期間が必要です。導入の目的や効果を最大化するためには、導入の期限を明確に設定してそのスケジュールに基づいた進行状況の把握と管理が欠かせません。
具体的なタイムラインを設定して各ステップの進捗を定期的に確認することで、スムーズな導入が目指せます。
導入目的を決める
カスタマーサポートの効率化、業務の自動化、ユーザーエクスペリエンスの向上など、具体的な目標を設定することでどのようなチャットボットが必要なのかが決まります。
また、目的に従い、必要な機能や設置場所、対応範囲の調整が行えます。
例えば、FAQや定型文の対話を中心とするチャットボットであれば、テンプレートが利用できる場合もあるため比較的早期に運用が始められます。
しかし、カスタマーサポート、予約システム、業務の一部自動化など複数の業務に対応する場合や、既存システムとの連携、AIによる高度な自然言語処理、機械学習機能などを備えたチャットボットの場合は開発内容が複雑になるため、予算が増大して開発期間も長期化します。
チャットボットを設置する場所を決める
チャットボットは色々な場所に設置可能です。ユーザーのアクセス頻度が高く利用しやすい場所に配置することで、利用率の向上が図れます。
設置場所 | 設置場所例 | 対応内容 |
Webサイト (PCサイト・スマートフォンサイト) | ・ECサイト ・サービスサイト ・コーポレートサイト | ・ユーザーのFAQ ・問い合わせ受付 ・Web接客(販売促進) |
SNS | ・LINEのトーク画面 ・Twitterのダイレクトメッセージ ・Facebookメッセンジャー | ・ユーザーの問い合わせ |
社内チャットツール | ・Microsoft Teams ・LINE WORKS ・kintone ・SharePoint | ・社員からの問い合わせ ・業務サポート |
チャットボットに求める機能を洗い出す
チャットボットはシナリオ型とAI型に大別できます。また、一般的な機能には以下のようなものがあります。
- 自然文による応答
- 選択肢の提供
- 有人対応への切り替え
- アンケート
- 外部システム連携
- 表記揺れ認識、調整
- カスタマーサポート
- 予約システム
- 業務自動化
- データ連携
- 高度な自然言語処理
- 機械学習
- 自動学習
「カスタマーサポートに特化したい」「FAQを自動応答したい」「顧客情報を収集したい」「予約システムと統合したい」「開発費用を抑えたい」「運用サポートも必要」「まずは小規模に導入したい」など、自社の目的を明らかにして必要な機能をリストアップしましょう。
目的に応じて、必要となるチャットボットの機能や種類、設置場所、シナリオ、ユーザーの動線などが変わります。
さらにAIの導入や自然言語処理のレベル、使いやすさなど詳細な要件を明確にしておくことで、システム開発を行う際の打ち合わせがスムーズに進みます。
チャットボットの導入担当者を決める
仮にチャットボットの開発を外部の企業に依頼していたとしても、自社に窓口となる担当者を決めておくことが大切です。
担当者には、以下のような業務が想定されるため、既存の業務の調整を行うなど、担当者のリソース確保も重要です。
チャットボット導入時の担当者の業務例
- スケジュールの進捗管理
- ベンダーとの連絡
- ツールの選定
- チャットボットに登録するFAQの作成
- 社内導入に向けた資料整備
チャットボット導入後の担当者の業務例
- FAQ、シナリオの追加・更新
- システムの使い勝手や変更要否の見極め
- チャットボットの不具合問い合わせ
なお、担当者のスキルセットとして、チャットボットに対する一定の知見とコミュニケーション力があるとスムーズに導入がすすめられます。
チャットボットツールの比較をする
一般的に高機能なツールであっても、自社の要件に合うとは限りません。開発したい要件を明らかにして、管理のしやすさやAIの応答精度、サポート体制などの比較検討を行いましょう。
- 基本機能:FAQ応答、定型文の対話、有人対応への切り替え機能など
- 高度な機能:自然言語処理、機械学習、自動学習機能など
- カスタマイズ性:自社の課題解決に必要な業務やシナリオに対応可能か
- 使いやすさ:ユーザーインターフェース、管理画面の使いやすさ
- コスト:初期費用、月額費用、追加費用
- 導入・運用サポート:ベンダーサポート、導入トレーニング、メンテナンス
- 連携性:外部システムとの連携、APIの有無
- セキュリティ:データ保護、認証・認可機能
- スケーラビリティ:拡張性、パフォーマンス
- ユーザーレビュー:導入事例、レビュー評価
各ベンダーに相談してデモや無料トライアルを利用する
チャットボットの比較を行ってある程度候補が絞れてきたあとは、複数のベンダーに相談してデモや無料トライアルを利用してみましょう。実際にシステムを使ってみることで、操作性や機能性が確認でき、導入後のイメージがつかみやすくなります。
また、トライアルの際には、自社が導入したいチャットボットに対する詳しい提案が受けられます。サポート体制やコスト、データ保護対策やプライバシーポリシーなど、Webサイトだけでは調べきれない情報を知り、自社のニーズに最適なソリューションを決定しましょう。
なお、一般的に無料版は機能が制限されていて、トライアルも期間が区切られています。あらかじめ、以下のような評価項目を決めておくと効率が良くなります。
- 実業務に準じたテストシナリオ
- たくさんの人が使った場合の状態での負荷状況
- テスト時のフィードバック収集
ベンダーと詳細を詰める
チャットボットを導入するベンダーを決めたあとは、実際に依頼する内容を双方同意して発注を行います。ベンダーと詳細を決める際には、開発内容に応じて以下のような内容が盛り込まれます。
- 契約期間
- 料金:初期費用、月額費用、FAQ作成・初期学習サポート、運用コンサルティング、サポート
- 支払い条件
- 導入支援:インストール、設定、トレーニング
- 運用サポート:問い合わせ対応、トラブルシューティング
- メンテナンス頻度、内容
- 標準機能
- カスタマイズの可否と費用
- 導入期間、マイルストーン(導入完了、トレーニング完了など)
- トレーニング教育資料
- データ保護対策データのバックアップ方法と頻度認証認可機能
- パフォーマンス基準:レスポンスタイム、処理能力、拡張性など
- サービス内容:稼働率、応答時間、違反時の補償など
基本的な実施内容に加えて導入後の運用などをスケジュールやトレーニング内容とともに調整しておくことで、スムーズに導入ができます。
社内運用体制を確保する
チャットボットは、完成したあとに問題や使い勝手の改善が必要になります。運用をはじめたあとは、PDCAを回して改善を図ることが重要です。
導入後に発生する課題例 | 自社での対応例 |
チャットボットの誤回答、シナリオ不備 | ・誤回答の修正 ・シナリオやFAQの見直し |
サーバー障害、ソフトウェアのバグなどによるトラブル | ・トラブル発生時に迅速にベンダーへ連絡 ・バックアップ手順の整備と定期的な確認 |
チャットボットの回答精度の低下 | ・フィードバックの収集と分析 |
ユーザーが回答に不満足 | ・改善点を運用プロセスに反映 |
新しい情報や機能の追加・更新 | ・シナリオや機能の定期的な更新 ・更新内容の社内共有、トレーニング |
投資対効果の確認 | ・利用データの定期的な収集と分析 ・定期的なレポート作成と運用改善 |
データ漏洩や不正アクセスのリスク | ・セキュリティポリシーの遵守 ・定期的なセキュリティチェック |
法令遵守 | ・法令に基づいた運用ポリシーの策定 ・定期的なコンプライアンスチェック |
シナリオ構築やFAQの作成をする
シナリオ構築やFAQを作成する手順は以下のとおりです。最初から完璧な内容を目指すのではなく、まず優先すべき内容を決めて少しずつ導入していくほうが、運用が軌道に乗りやすい傾向があります。
- 情報収集:今までの問い合わせ履歴や社内のナレッジを収集
- 情報の優先順位付け:「問い合わせ頻度が高い」「定型的な回答で対応できる」など、導入効果が期待できるナレッジの優先度を高く設定する
- 質問と回答を作成:質問、回答、詳細ページURLをExcelなどにまとめる
- チャットボットに登録
- FAQを追加・修正・更新
チャットボットのトーク画面では表示範囲に制約があり、長文が読みにくくなっています。そのため、チャットボットの質問と回答は、端的に表現を行います。
また、詳細ページのURLを添えて、詳しくは遷移後のページで確認してもらうように誘導するのが一般的な方法です。
なお、ユーザー向けのチャットボットの場合、専門用語は分かりやすい表現に変更しておくと親切です。
テスト運用をする
シナリオの矛盾や回答の誤りなどの検証を行います。対応の抜けもれを予防するために、社内の複数の人間で検証するのがおすすめです。
チャットボットを導入する
運用を開始したあとは、想定外の質問の有無や使用頻度、離脱率、CV率などさまざまな観点でモニタリングを行います。ボットの最後に簡単な使い勝手に関するアンケートを設けたり、問い合わせ窓口を明記したりするとPDCAを回すのに役立ちます。
チャットボットの導入にかかる期間
チャットボットの導入にかかる期間はチャットボットツールの機能や登録するFAQ、シナリオの量によって異なります。
自社でチャットボットに登録内容を用意できていて、入力するだけであれば1週間程度でチャットボットが導入できることもあります。
しかし、ベンダーに開発を依頼する場合には、1か月から3か月程度の時間がかかることが一般的です。要件定義や打ち合わせなどを含めると、導入までに半年以上かかることも珍しくありません。
また、AI搭載型のチャットボットの場合には、機械学習を行う時間が必要になるため、シナリオ型のチャットボットよりも導入に時間がかかります。
チャットボット導入に失敗しないためのポイント
失敗せずチャットボットの導入を行うためには、事前準備と運用後の改善が重要です。起動回数・回答率・解決率などをKPIに設定して分析を行いましょう。
ユーザーに導入を伝達する
チャットボットの導入に際しては、ユーザーにその存在と利用方法をしっかりと伝えることが重要です。
まず、社内外のユーザーに対してチャットボットの導入目的や利便性を説明し、適切なガイドラインを提供します。入力例やよくある質問もあると便利です。
社内向けのチャットボットは、メールや社内ポータルサイトなど分かりやすい場所に設置するのがおすすめです。
また、ユーザー向けのチャットボットでは、問い合わせページの起動と同時にチャットボットも起動させても良いでしょう。さらにWebサイトやSNSで告知をしてチャットボットの認知度を高める方法もあります。
図やチャートなどのコンテンツを用意する
チャットボットの認知を高めるためには、チャットボット自体のデザインや配色を工夫して目立たせることが重要です。また、複数の選択肢がある場合に、文字情報だけではなく図やチャートなど視覚的なコンテンツを用いると、ユーザーが直観的にチャットボットの遷移を理解しやすくなるため、利便性向上が図れます。
二次対応の案内を用意する
チャットボット自体は起動しているのに離脱率が高かったり、チャットボットで対応できない複雑な質問や問題が発生したりすることがあります。
もし、チャットボットだけで解決できない場合に備えて、二次対応の案内を用意しておきましょう。一定のシナリオの最後にオペレーターへ接続する遷移を加えたり、サポートチームの連絡先を記載したりすると、ユーザーの利用満足度を高めるのに役立ちます。
チャットボットの導入事例
実際のチャットボットの導入事例を3件ピックアップして紹介します。
- 東京地下鉄株式会社:忘れ物に関する問合せ方法の改善
- 国立大学法人東北大学:利便性の高いオンライン窓口の実現
- Venture Lab.株式会社:イベントスペースの複数提案
東京地下鉄株式会社:忘れ物に関する問合せ方法の改善
東京地下鉄では、鉄道会社初の取り組みとして、お客様向けチャットボットとお客様センターの業務に生成AIを活用したシステムを取り入れています。
東京メトロのお客様センターでは、電話やメール、チャットボットをあわせて年間25万件の問い合わせを受けています。そのため、顧客の利便性向上及び業務効率化のためにチャットボットの機能高度化を図っているのです。
生成AIのチャットボットは、FAQに加えて公式Webサイトの情報なども活用して適切な回答を生成できるため、より多様な質問に対応できるように機能の強化ができました。
また、忘れ物の問い合わせについてもチャットボットで対応する体制を整えています。
参考:鉄道会社初!生成AI搭載のチャットボットが、お客様のお問合せに対応します!合わせて、お客様センターの業務にも生成AIを活用します!
国立大学法人東北大学:利便性の高いオンライン窓口の実現
東北大学では、国立大学法人としては初めて大学ホームページなどに生成AIを採用し、14種類のチャットボットを実装しています。チャットボットの導入は、業務改善の一環として学内公募で組織した「業務の DX 推進プロジェクト・チーム」が中心となり推進を行っています。
従来、問い合わせの窓口対応に、シナリオベースのチャットボットを導入していたものの、ユーザーの質問に回答しきれなかったり、想定質問の準備などの運用コストが増大したりする問題を抱えていました。より利便性の高いオンライン窓口の実現に向けて、生成AIを導入することで、自然な対話応対が可能です。また、多様な言語にも適切に対応できる効果も得られています。
Venture Lab.株式会社:イベントスペースの複数提案
Venture Lab.はイベント企画などを行っている企業です。営業のDX化の一環として、自社独自の催事スペース検索システムである「スペースラボ」の情報と生成AIを組み合わせたシステムを導入しています。ユーザーは、チャットボットと自然な会話を行うなかで、希望の条件にあった会場の提案が受けられます。また、チャットボットで定型的な問い合わせについても回答が得られます。
チャットボットは常に稼働しているため、24時間営業の機会を逸することなく地域や広さ、利用期間、時間、予算などの確認を行ってイベント会場が複数提案可能です。営業担当の業務負荷軽減と提供情報やサービス品質の均一化につながっています。
参考:TISの生成AI搭載チャットボット「Dialog Play®」が、Venture Lab社の催事スペース検索システム「スペースラボ」内で営業担当に代わり自然な会話の中で催事スペースを提案
まとめ
チャットボットを導入する際は、今回紹介した流れに準じて準備を行うことで、効率的に進められます。
しかし、シナリオの要件定義やツールの選定、開発、運用など、導入前後に対応すべきことが複数あります。もし自社に知見やリソース不足を感じている場合には、外部の人材活用もおすすめです。
エッジワークには、チャットボットの開発、運用をはじめ、さまざまな分野に豊富な実績をもつプロ人材が多数在籍しています。業務委託先を見つけたい場合には、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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