AI技術の進化により、さまざまな業界での業務が劇的に変わりつつあります。AIは、課題の検知や対応の自動化、データの解析や予測、精度の向上など、幅広い分野でその力を発揮しています。
本記事では、AIの定義を簡単に振り返りつつ、10の業界についてAI活用事例をご紹介します。AIによる予測や検知、提案はさまざまな分野で導入可能です。AIの導入を検討している方や最新技術に興味がある方は参考にしてください。
目次
- 1 AI(人工知能)の定義
- 2 【業界別】AI活用事例10選
- 2.1 【医療】宮崎医科大学医学部附属病院:臓器の異常検出
- 2.2 【小売】株式会社イトーヨーカ堂:販売予測の提案
- 2.3 【金融】株式会社みずほフィナンシャルグループ:与信稟議作成と事務手続照会の効率化
- 2.4 【教育】株式会社市進:問題の自動作成
- 2.5 【製造】横河電機株式会社:化学プラントの自動制御
- 2.6 【農業】個人農家:きゅうり選別作業の自動化
- 2.7 【不動産】住友不動産エスフォルタ株式会社:入館時の温度検知
- 2.8 【保険】第一生命保険株式会社:保障設計のレコメンドシステム
- 2.9 【物流】株式会社ベルメゾンロジスコ:物流倉庫の人員最適配置
- 2.10 【飲食】株式会社福しん:棚卸業務の負担軽減
- 3 まとめ
AI(人工知能)の定義
AI(Artificial Intelligence:人工知能)とは、「大量の知識データに対して、高度な推論を的確に行うことを目指したもの」など、さまざまな解釈がなされています。
古くはゲームなど推論や探索を行うものであり、株価予測や病理診断など人が入力した知識を表現する手段としても活用されていました。
昨今のAIのトレンドは、新しい機械学習の方法である「ディープラーニング」です。入力されたデータをもとに、大量のデータから傾向を見つけて自分で学習を進めていく機械学習で、人の言葉を理解して適切な応答を行わせる技術全般をAIと呼ぶ傾向があります。
【業界別】AI活用事例10選
AIはあらゆる業界で導入する余地があります。ここでは10種類のAI活用事例を紹介します。自社の課題に類似するものがないか参考にしてみましょう。
【医療】宮崎医科大学医学部附属病院:臓器の異常検出
宮崎医科大学医学部附属病院では、CT、MRIなど医療画像を用いた診断ニーズが増加していることを受け、画像診断の専門家である放射線科医の診断負担を軽減するためにAIを活用しています。
AI画像診断では、患者を撮影した数千万点の医療画像をAIで分析して異常を検知しています。腎臓の異常検出を行う実証実験では、異常を高い精度で検出でき、AIが質の高い画像診断を支援できるものと期待されています。
画像診断は、癌や心疾患、脳血管疾患などの早期発見に大いに役立ちます。そのため、装置を用いた撮影から診断までのワークフローを効率化させてAIを用いて診断にかかる負担のさらなる軽減を目指すとともに、さまざまな異常の検出精度を高めることで、今まで人の目だけに頼っていた診断で人為的ミスによる病変の見落としの防止を図ります。
参考:医療現場を支えるNTTデータのAI画像診断支援ソリューション
【小売】株式会社イトーヨーカ堂:販売予測の提案
イトーヨーカ堂では、AIを使った商品発注システムを全国132の店舗に導入しています。
対象商品は加工食品、冷凍食品、アイス、牛乳などの約8,000品目です。
従来の店づくりには、接客、売り場づくり、発注など従業員に対して膨大な負荷がかかっていました。AI発注システムでは、価格や商品陳列の列数など店舗にある各消費品の情報と天候情報、曜日特性などを組み合わせることで、最適な販売予測数を導き出し発注者に提案を行います。
店舗の発注担当者は、AIの出力データを踏まえて発注判断を行うため、発注にかかわる集計や分析、予測にかかる時間が削減でき、接客業務や売り場作りなどに時間を使えるようになりました。
テスト導入の結果によると、店舗担当者が発注作業にかける時間が平均約3割短縮できたほか、営業時間中に商品の在庫切れを抑制し、適正な在庫数量の確保ができるようになりました。
【金融】株式会社みずほフィナンシャルグループ:与信稟議作成と事務手続照会の効率化
みずほフィナンシャルグループでは、負荷が高い業務のひとつである事務手続照会と与信稟議作成の効率化に向けて、生成AIを活用した働き方の検討を行っていました。
生成AI活用計画として3つのフェーズに区切り、グループ全体で導入に取り組み始めました。Phase1では、社内向けテキスト生成AI「Wiz Chat」を取り入れ、業務の中でテキスト生成AIを試して活用方法を社内SNSなどで共有することから始めました。また、これからの働き方アイデア創出のための短期プログラムである生成AIのアイデアソンを行い、社内からAIの活用方法の意見を募りました。
Phase2では社内データに加えて社外のデータも活用した業務効率化を進め、Phase3では社内外のデータ用いて顧客ごとに最適なコミュニケーションを行うハイパー・パーソナライズド・マーケティングの実現を目指してサービス向上を図っています。
参考:〈みずほ〉が見据える、10年後の金融。生成AIを活用して、業務効率化と新たなイノベーションの実現へ。
【教育】株式会社市進:問題の自動作成
市進が運営する「市進学院」では、市進オンラインスクールで学習プラットフォーム「Monoxer」の導入を行っています。「Monoxer」は、モノグサ株式会社が提供するサービスで、AIが適切な難易度の問題の自動作成や記憶度と学習状況の可視化などがアプリ上で行えます。
一方「市進学院」は「めんどうみ合格主義」を掲げて独自のオンライン指導を行っています。定期テストに力をいれるなかで、記憶定着すべき情報をAIの学習計画機能を活用すると、確認テストの日から逆算して個別最適化された問題が確認できます。
「市進学院」のオリジナルコンテンツとAIを組み合わせることで、英語や数学など主要5科目に対して生徒一人ひとりにあわせた学習機会の提供が可能です。今後はオンラインスクールだけでなく、対面授業の学習塾や予備校、個別指導塾への展開も検討しています。
参考:大手進学塾「市進学院」がオンラインスクールにおいて、学習プラットフォーム「Monoxer(モノグサ)」を導入
【製造】横河電機株式会社:化学プラントの自動制御
横河電機は、JSR社と共同実証実験を行い、AIだけで化学プラントを35日間自立制御することに成功しました。
制御箇所は蒸留塔内で、運転員がバルブの操作量を考えて手動制御をしていた部分です。PID制御やAPC(高度制御)では対応できない部分のため、強化学習AIを導入することで、自律制御や運転最適化に大いに活かせます。AIは、複数のセンサやバルブを参照し、降雨や降雪などの外乱条件を考慮したうえで、品質と省エネを両立する制御の判断が可能です。さらにそれらの結果をもとに複数のバルブの制御操作が可能です。
今回の実験では、学習回数が限られる条件下でも、ロバスト性を高めて制御方策が学習できると確認できました。これにより排熱を最大限活用しつつ、規格外品の生産で発生する燃料や人件費、時間の無駄が削減できました。
参考:【横河電機/JSR】世界初 AIによる自律制御で化学プラントを35日間連続制御
【農業】個人農家:きゅうり選別作業の自動化
AIの導入には数百万円単位の費用がかかると想像する人は少なくありません。しかし、なかにはわずか2万円の開発費でAI導入に成功した事例があるのです。
静岡県のある個人農家は、生産しているキュウリの自動仕分けにAIを取り入れています。アクリル板に乗せたキュウリをカメラで撮影すると、その情報から画像認識で長さや曲がり具合、太さなどの情報が得られます。それらを分析することでキュウリを9段階の等級に分けて自動で分類を行います。
開発にはGoogleのディープラーニングを行う無料のソフトウェアを用い、1等級あたり約4000本の画像で学習させています。仕分け作業では選別精度の向上を図り、梱包までの自動化を最終目標にしているものの、すでに仕分けの作業効率が約4割高くなりました。
さらにキュウリの最適な収穫時期を判断できるように農場の映像を撮影して最適なキュウリを知らせるシステムの開発を行っています。
【不動産】住友不動産エスフォルタ株式会社:入館時の温度検知
住友不動産エスフォルタは、運営している体育館、温水プール、総合スポーツセンター施設にAI温度検知システムを導入しています。各施設入口付近に「SenseThunder」という顔認識技術と赤外線サーモグラフィーを搭載したAIを導入して、これにより来場者のスクリーニングを行っているのです。
マスクを着用したままでも約0.5秒で一定以上の高い温度を検知して、体表温・体温・室温に関するビックデータと組み合わせることで、発熱の疑いのある人物の入館を抑制しています。これにより、施設内へのウィルスの持ち込みやクラスター発生の防止の強化が可能です。
また、万一異常温度を検知した場合に管理者へアラート通知を送る「温度管理アプリケーション」があるため、管理者は常に従業員や入館者の温度検知結果の確認が可能です。
参考:住友不動産エスフォルタ株式会社がAI温度検知システムを運営施設に導入
【保険】第一生命保険株式会社:保障設計のレコメンドシステム
第一生命保険は富士通とともにAIが保障プランを提示する「AI 保障設計レコメンドシステム」を開発しました。まずAIは、加入中の契約情報や顧客が重視したい内容、保険料の予算などを機械学習します。そのうえで、顧客の意向に基づいた保障プランの提示を行います。
通常、生涯設計デザイナーは保険提案の際にお客さまニーズ確認と具体的提案を行います。このステップに「AI 保障設計レコメンドシステム」のサポートを活用することで、経験の浅い担当者でも高いコンサルティング能力が発揮できるほか、提案品質の均質化が図れます。さらに、複数プランの比較表示にも役立つため、顧客はより意向に沿ったプランの選択が可能です。
このAIの導入により、生涯設計デザイナー1人あたり年間約120時間の効率化が図れ、ワーク・スマートの推進に役立っています。
参考:AIがお客さまの意向に基づき保障プランを提示するシステムを開発
【物流】株式会社ベルメゾンロジスコ:物流倉庫の人員最適配置
ベルメゾンロジスコは、通販向け物流倉庫において人員最適配置自動作成サービスの導入を行いました。これは量子コンピューティングプラットフォームの「Fixstars Amplify」を用いて実現したものです。
物量倉庫の作業者配置計画には、担当者のシフト希望のほか、個人の経験、ローテーション、物量予測などさまざまな要因を踏まえる必要があります。この計画には毎日数時間を要し、スタッフリーダーの経験と勘が求められるため大きな負担になっていました。
人員最適配置自動作成サービスは、作業計画、人員配置、収支管理、各従業員のスキルデータなど倉庫運営にかかわるデータを可視化する「スマイルボードコネクト」と連携しています。これにより、従業員満足度を高めるために必要となる勤務時間の自由度の向上や業務上のストレス軽減、作業者配置の長期的計画に役立てることが可能です。
【飲食】株式会社福しん:棚卸業務の負担軽減
福しんでは、管理業務をDXで効率化することで業務負荷の軽減を行っています。需要予測型AI自動発注サービスの「HANZO 自動発注」を業務に取り入れています。「HANZO 自動発注」はAIが曜日や天候、季節トレンドをもとに需要予測を行い適正な発注管理を行うシステムです。また、レシピデータ、レジデータ、予約状況などを取得して必要発注数量の提案も可能です。
このシステムの導入により、勘・経験を頼りにしたアナログ作業による作業負荷・発注ミスの発生や在庫ロス、過剰発注、食品廃棄の発生による原価率の高騰、担当者への負荷集中などの軽減が図れます。
毎日10から15分かけていた在庫管理にかかる時間が0分となり、1店舗あたり約5時間/月の工数削減が図れました。特に店長は本来の店長業務に時間を割けるようになり、勤務時間を削減にも役立ちます。
参考:発注入力業務がほぼ0に!お客様・従業員に寄り添った福しんのDX活用
まとめ
AIの技術は画像認識や自動音声処理、異常検知、予測分析などさまざまな分野に活用可能です。活用できる業態も製造業や医療、金融、保険、小売業などさまざな分野で活用が期待されています。
自社にAIを取り入れるなら、AIエンジニアや機械学習エンジニア、データサイエンティスト、データアナリストなどのサポートが得られると最速で自社の課題を解決に導くことができます。
エッジワークではスキルの高いプロ人材が多数在籍しています。AIの活用や導入を検討している際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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