AIの導入は、企業の業務効率化や競争力強化において大きな役割を果たす可能性があります。
しかし、国内ではまだ導入が進んでおらず、業務改善に役立つAIを導入するためには適切な知識と準備が不可欠です。
本記事では、AI導入のメリットや導入までの流れ、AI導入で失敗しないためのポイントについて詳しく解説します。AI導入を検討する際に検討すべきことや失敗を回避して効果的に導入を実現するためのポイントについて確認しておきましょう。
AI導入の基礎知識
AI導入においては、AIの基本的な機能や可能性を理解し、どのように企業の業務に活かせるかを検討することが重要です。具体的には、AIがどのようにデータを学習し、それを基に意思決定を支援するかを理解することが求められます。
AIとは
AI(Artificial Intelligence:人工知能)は、企業のさまざまな分野でデータ分析や業務の自動化を支援するために活用されている技術です。AIは、人間が行う知的な活動をコンピュータが代わりに行い、学習や推論を通じて高度なデータ処理や判断などのタスクを自動的に実行します。
AIの技術には、画像認識、自然言語処理、自動運転、予測分析などが含まれており、これらが企業においてデータ分析や業務の自動化に活用されています。
AI導入のメリット
AI導入には以下のように多くのメリットがあります。AIを適切に導入することで、企業は業務の効率を高め、競争力を強化することが可能です。
- 生産性向上
- 業務の省人化
- コスト削減
- 安全性の向上
- ビッグデータ活用の実現
生産性向上
AIは、大量のデータを高速に処理し、複雑な業務を自動化することで、生産性の向上を目指せます。
例えば、カスタマーセンターでの顧客対応にAIによるサポートが活用可能です。また、画像やセンサーと組み合わせると物流や生産ラインの自動化、不良品の検知、設備と機械の保全などに活かせる余地があります。
AIの導入により、企業はより短い時間で多くの業務をこなせるため、業務効率化やリソースの最適化が図れます。
業務の省人化
AI導入により、これまで人手が必要だった業務を自動化できるため、業務の省人化が実現します。特に、定型的な作業や繰り返し作業の自動化により、労働力の効率的な活用が可能です。AIを搭載した機能やサービスを用いれば、量の多い作業でも短時間で処理できます。
文書やイラストの生成、文字列や画像、動画データの入力・集計、プログラミング言語を使わないソースコードの生成など、今まで担当者が行っていた業務の省人化を図ることが可能です。
コスト削減
AIは人間とは異なり、基本的に作業のモチベーションや体調などの影響を受けません。チャットボットを用いた問い合わせ対応の自動化や店舗でのタブレット端末を用いたセルフオーダーシステムの活用、配膳ロボット、無人販売所は24時間作業効率を落とさずに稼働できるため、人件費の削減に役立ちます。
また、画像解析や経費精算などバックオフィスにAIを活用すれば、人でなければ対応できない業務に人員のリソースを振り分けることができます。
安全性の向上
産業用ロボットや自動運転技術にAIを活用すると、建設現場における高い場所や人体に影響を及ぼす化学物質、放射線などが充満した危険箇所での業務や労働環境におけるリスクが大幅に減らせます。
また、AIを搭載したカメラは、生産ラインや建設現場で不適合な要素の検出や、気温や湿度などセンサーと組み合わせることで労働環境の異常を検知し、作業員の安全確保を図る野に役立ちます。
ビッグデータ活用の実現
例えば、気象データや宿泊施設などから来客予測を行えば、食堂における食材の手配や人員配置などに活かせます。また、Webでの行動や購入履歴などを分析して、ユーザーの嗜好に応じた商品を提案して売り上げの向上が図れます。
製造現場の場合、カメラやセンサー、製造品の良品・不良品の情報から設備の効率化を目指すことも可能です。このように、市場ニーズの把握や顧客満足度の向上、現場や経営戦略の意思決定に活かせます。
AI導入のデメリット
AI導入には多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。これらのデメリットを理解し、適切な対策を講じることが、AI導入の成功に必要です
- 情報漏洩のリスク
- 責任の所在が不明確
- 思考プロセスのブラックボックス化
情報漏洩のリスク
AIは、膨大な量のデータを効率的に処理・分析できる強みがあります。そのため、AIを導入する際には大量のデータを取り扱うことになります。そのため、AIシステムが不正アクセスを受けないようにするセキュリティ対策が必須です。
重要な個人情報や企業機密を含むデータをAIが処理する場合には、アクセス制御や暗号化技術の導入、社内でセキュリティ関連のルールを確立、セキュリティ教育、専門知識を持つ担当者の配置などの対策が重要です。
責任の所在が不明確
AIによる事故やトラブルに法整備が追いついていない場合、AIの意思決定で問題が発生した際に、責任の所在が曖昧になる可能性があります。
特に、ロボットやドローンなど自動化されたシステムが誤った判断を下した場合、操作をしていた担当者が責任を負うべきなのか、またはAIの製造会社やAIを導入した所有者が責任を負うべきかが明確化できない可能性があります。これにより、トラブルへの対応が遅れたり、さらなる問題を引き起こしたりする可能性があります。
思考プロセスのブラックボックス化
深層学習などの高度なAI技術は、出力結果の根拠が明確に説明できない場合が多く、結果として企業や顧客に対してなぜそのような結果になったのか明確化しきれない可能性があります。
また、思考のプロセスが不明確なままでは企業内にナレッジが残らず社外競争力の低下につながるかもしれません。
AIのブラックボックス化により、AIシステムの信頼性を低下させ、運用中に問題が発生した際に迅速な対応が難しくなるという課題を引き起こします。
日本企業のAI(人工知能)導入状況
日本企業におけるAIの導入は、AI技術の活用により業務効率化や生産性向上を目指して大企業を中心に導入が進んでいます。しかし、全体的な普及率が依然として低くなっているのです。ここでは日本企業におけるAIの導入状況とその課題について解説します。
日本は7か国の中で最下位
日本は、他の先進国と比較してAI導入の進捗が遅れており、AIアクティブ・プレイヤーの割合は2018年で39%とG7諸国の中で最下位になっています。2024年の調査でも、生成AIの効果に不安を感じているのは日本が最も高く、グローバルサウスの国々は傾向的に生成AIの効果を確信している割合が高くなっているのです。
日本では、企業文化やリスク回避志向が強く、新しい技術の導入に対する慎重さが影響している可能性があります。手作業やアナログな業務が多く残る企業も多く、AIの導入に関する知識不足や、導入に必要なデータの整備が不十分であることが問題視されています。このような状況を打開するためには、AI技術に関する教育や啓発活動、そしてデータインフラの整備が急務だと言えます。
ほとんどの産業で導入・運用が遅れている
日本の職場におけるAI導入率は13.3%で、アメリカの30.2%とは大きな開きがあります。中国ではどの産業でも8割以上がAIを活用しているのに対し、日本の産業全体で見るとAIの導入・運用が遅れている傾向にあります。特にヘルスケア、産業財、消費者向け産業で割合が低くなっています。
- 消費者向け産業:35%
- エネルギー:38%
- 金融機関:42%
- ヘルスケア:23%
- 産業材:32%
- テクノロジー・メディア・通信:60%
AIは、導入効果がすぐには現れにくい傾向があるため、既存の業務プロセスとの整合性確保や社内の理解不足、AI導入のリソース・人材の不足などさまざまな課題を抱えているのです。そのため、政府や業界団体による支援策やAIを導入した成功事例の共有や導入のハードルを下げるための取り組みが求められています。
AI導入までの流れ
AIを効果的に導入するためには、段階的な準備と確認が必要です。ここでは、AI導入の基本的な流れを解説します。
- 導入目的を明確にする
- データを確認する
- 予算を検討する
- 適切なAIを選択する
- モデル開発とトレーニングを行う
- テストと評価を行う
- 本番導入
- 運用
導入目的を明確にする
AI導入を成功させるためには、まず導入目的を明確にすることが不可欠です。「来客予測精度向上」「対応工数削減」「検品の負担軽減と確認品質向上」など、企業が直面している業務上の課題や、解決すべき問題点を洗い出し、AIがどのようにそれを支援できるかを具体的に定義する必要があります。
導入目的は、必要となるAIの種類や機能を適切に選定するための指針となり、社内の関係者間で共通の理解を持つことができます。目的が明確で効率よく導入を進めたい場合には、外部の専門家を活用することも一案です。
データを確認する
AIは大量のデータを基に学習し、意思決定を行うため、導入前にデータの確認が重要です。データの量や質、そして適切に整理をすることで、AIモデルが正確に学習できる環境が整備できます。もしデータに不備がある場合は、AIの判断が誤ったものになる可能性があるため、データの整備と管理が導入前の重要なステップです。
AI導入の際は、目的の達成に必要となるあらゆる情報を集めなければなりません。社内のデジタルデータはもちろん、Webから情報を取得する体制を整えたり、紙の資料しかなければOCRなどで電子化したりする作業が必要になる場合があります。
予算を検討する
AI導入には、初期導入費用だけでなく、運用や保守にかかるコストも含めた予算検討が必要です。チャットボットの開発であれば、数万円から導入できる場合がありますが、AIツールやシステムを開発する場合は高額な費用が発生します。
また、AI人材の採用や教育にかかる費用も見積もる必要があるかもしれません。
もし最初から大きな投資が難しい場合には、スモールスタートで段階的に導入することや既存のサービスの活用なども選択肢として検討するのがおすすめです。投資対効果を踏まえて、長期的な視点で予算を検討しましょう。
関連記事:AI開発にかかる費用相場は?予算を抑えるポイントなどを解説
適切なAIツールを選択する
AI導入の成功は、適切なツール選択にかかっています。企業の業務内容や目標に最適なAIツールを選択することで、導入後の効果を最大化できます。市場にはさまざまなAIツールが存在するため、以下などを参考にそれぞれを比較検討して最適なものを選びましょう。
- AIツールの導入目的を解決する機能があるか
- 使用者が簡単に操作できるか
- サポート体制は利用目的にあっているか
- オンプレミスまたはクラウドどちらの環境で利用できるか
- ツールの導入実績は豊富か
- 導入費用、保守費用が予算内でおさまるか
- 費用対効果は適切か
モデル開発とトレーニングを行う
もし、適切なAIツールが選択できず、既存のAIツールだけでは十分に自社の課題解決が図れない場合は、カスタムモデルの開発が必要です。高度な要望に対応するAIモデルを開発するためには、データセットやアルゴリズム、ハードウェアとソフトウェア、AI人材の確保、プロジェクト管理、データ管理など技術的な問題と社内組織に関わる問題の両方を解決しなければなりません。
モデル開発では、企業固有の業務プロセスやデータを反映したAIシステムを構築し、トレーニングを行います。それぞれに専門的な知識とリソースが必要ですが、カスタマイズを行うことで、企業独自の課題解決に最適なAIの構築が可能です。
テストと評価を行う
テストフェーズでは、プログラムの一部または全体のテストを行い、現段階で不具合や改善点の明確化と修正を行います。
以下の観点について開発の段階ごとに達成目標を設けて評価します。
- Data Integrity(データ完全性)
- Model Robustness(学習モデルの堅牢性)
- System Quality(システム品質)
- Process Agility(プロセスの迅速性)
- Customer Expectation(顧客の期待)
なお、本番環境同等の条件で最終評価を行う場合でも、サーバ設定などを本番環境に直接連携することは避けておくと予期せぬトラブルが予防できます。
本番導入
AI機能を業務に統合するには、社内チームとの緊密な協力が欠かせません。運用中のデータや予期せぬ課題が精度に影響を与えるため、AIの予測を継続的に監視し必要に応じて改善を図ります。ユーザーが使いやすいかを評価をするために、本番環境での確認項目を明示しておくと便利です。
また、不用意に設定を変更したり、手順や仕様以外の操作を行ったりしないようにAIを扱う担当者に適切な教育とサポートを行いましょう。
運用
初期段階では、予期せぬ問題が発生する可能性があるため、慎重に運用を行います。リスクを最小限に抑え、改善を行うためのフィードバック体制も構築しておきましょう。
また、安定してAIが導入できていても、企業がAIのパフォーマンスを最大限に引き出すためには、継続的なモニタリングと改善が不可欠です。社内のデータや業務の変動に合わせてAIモデルを再学習させることで、現場での実用性をさらに高められます。
さらに社内のAI運用に関する知識の共有や、新しい技術への対応も不可欠です。適切な支援体制を整え、AI技術と業務知識を融合させることにより、作業時間の短縮や意思決定の迅速化が期待できます。
AI導入を失敗しないためのポイント
AI導入の成功には、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。導入目的を明確にし、費用対効果を十分に考慮した上で、現場との密接な連携を図ることが、失敗を避けるために必要なステップです。
導入目的を明確にする
AI導入の際は、まず企業が直面する業務上の課題や問題点を明確にすることが不可欠です。AIで予測した結果を活用する業務の範囲を踏まえて、AIに予測してほしい集計期間、粒度、タイミングを明確にすると、AIモデルに必要な精度や開発すべき要件が定まります。
AIモデルは継続的にデータを活用・取得していく必要があります。手元にあるデータや今後収集可能な情報などを踏まえて実現可能な目標を定めましょう。
また、導入目的が明確であれば、プロジェクトチーム全体が共通の目標を持って進められるため、社内の理解と協力が得やすくなります。このプロセスでは、事例の検討や専門家の支援があると効果的です。
費用対効果を考慮する
AI導入には初期費用や運用コストがかかるため、ROI(投資対効果)を検討することが欠かせません。予算の範囲内で最適なソリューションを選び、期待される成果が十分に見込めるかどうかを事前にシミュレーションすることが大切です。
コストパフォーマンスを重視する場合、検証期間の設定が必要です。検証工程には一般的に2~3か月をかけることが多く、その間に成果を確認します。また、初期費用は必要最低限に抑えましょう。初めは手元にあるデータから導入を始めることで、リスクを抑えながら効果を検証することが可能です。AI導入はスモールステップがおすすめです。効果が確認できない段階で高額な投資を行うことは避けましょう。
現場との連携をとる
AIの導入は、現場での運用が円滑に進むかに大きく依存します。AIが導入される現場のニーズや意見を取り入れ、導入プロセス全体で密接なコミュニケーションを図ることが重要です。
そのためAIモデルの構築や検証、最適化を外部の専門家と協業する場合でも、自社の業務をよく理解している担当者が積極的に関わる必要があります。例えば、データ項目の説明や業務への活用可否の検討は社内のメンバーでしか判断ができません。また、より精度を高めるための議論や、得られた分析結果を判断する際にもこれまでの経験や実績を基に仮説化する必要があります。
これにより、現場での抵抗感を軽減し、導入後の運用がスムーズに進むことが期待できます。また、導入時には現場のスタッフに対する教育やトレーニングも欠かせません。
まとめ
AI導入は、企業の競争力を高め、業務効率化を実現する強力なツールとなります。しかし、その成功には導入目的の明確化、費用対効果の検討、そして現場との連携が欠かせません。これらのポイントを押さえてAI導入を進めることで、企業は新たな価値の創出や持続的な成長につながります。
AIの活用や導入を検討している場合は、専門家の活用がおすすめです。エッジワークには、高いスキルがあり豊富なAI導入実績を持つ人材が多数在籍しています。ニーズや予算に応じてさまざまなサービスが提供できるので、業務委託を検討している場合はぜひお気軽にお問い合わせください。
副業社員・フリーランスなどのスポットワーカーにプロジェクト単位でタスクを依頼・発注できるプロ人材活用サービス