DX

公開日:2024/02/29

PoCとは?導入するメリット・デメリットや実施する際の重要なポイントを解説

PoCとは?導入するメリット・デメリットや実施する際の重要なポイントを解説

PoC(Proof of Concept、概念実証)とは、新しい技術や製品、システムを導入する前に、その実現可能性や効果を検証することです。PoCを適切に行うことで、コストや労力、リスクを最小化してスムーズに開発が進められます。

本記事では、PoCを導入するメリットやデメリット、実施の際のポイントやステップについて、具体的な活用事例と合わせて紹介します。

PoCとは

PoC(Proof of Concept、概念実証)とは、新しいアイデアや技術の実用性と効果を事前に検証する方法のことです。以下はPoCの実施分野とその検証内容の一例です。

PoCとは
ITおよびソフトウェア開発IやIoT関連のソフトウェアやアプリケーション、システムの開発(技術の実用性や適切性など)
医療分野新しい医療機器や治療法の効果(臨床試験など)
自動車産業新しい車両テクノロジーや自動運転技術(安全性検証など)
金融新しい取引システム、ブロックチェーン技術、デジタル決済(セキュリティや効率性など)
農業
新しい農業技術やセンサー技術(収穫量や品質の向上など)
エネルギー
新しいテクノロジー(再生可能エネルギーやエネルギー効率向上など)

PoCは、技術を本格的に導入する前にビジネス上のメリットや成功の可能性を確かめるために必要で、プロジェクトのリスク低減にも役立ちます。

実証実験との違い

PoCは実証実験と同義で使われることがありますが、実証実験は実用化に向けた問題点を洗い出すこと自体が重視されています。

PoC(概念実証)は技術やアイデアの実現可能性を検証する工程ですが、PoCを行うなかで問題が発見される場合もあるため、PoCが実証実験を兼ねることもあります。

プロトタイプの違い

PoCとプロトタイプ(試作モデル)では、目的と機能が異なります。PoCはアイデアや技術の実現可能性を検証する段階であり、プロトタイプは方向性や実現性が確定したアイデアの試作品そのもののことです。

プロトタイプは実際の製品に近づけるために機能、デザイン、ユーザー体験を具体化するものであり、PoCにより方向性や実現性がある程度確定した後にプロトタイプが作られます。

MVPとの違い

MVP(Minimum Viable Product、実用最小限の製品)とは、市場に製品やサービスを投入する前に、顧客に価値を提供する最小限の機能を備えた製品を作り、市場や顧客の反応をテストしながら改善を図るために用いられる開発手法です。

PoCとは目的が異なるものの、開発初期に製品・サービスの検証を行う過程でMVPが使用されることがあります。

PoCとPoV、PoBの関係

PoCは実現可能性の検証であり、PoVは価値、PoBはビジネスとしての成功を評価します。

PoV(Proof of Value、価値実証)とは、提案されたアイデアや製品が市場やユーザーにとって実際に価値があるかどうかを検証することです。PoVは、単に技術的に実現可能であるかを超えて、その製品やサービスが対象のユーザーや顧客に具体的な価値を提供できるかを評価します。

PoB(Proof of Business、事業実証)とは、新しい製品やサービスがビジネスとして成立するかどうかを検証することです。市場での収益性、コスト構造、財務的な持続可能性など、事業としての健全性を評価することを目的としています。

PoCを導入するメリット

PoCを導入するメリットは、以下3つの観点から新しいアイデアやテクノロジーの実現可能性が検証できる点です。

  • コスト・労力の削減
  • リスク削減
  • スムーズな意思決定

以下で詳しく解説します。

コスト・労力の削減

新事業の立ち上げ時は、想定外の事態に対応する工数や費用がかかることが少なくありません。PoCでは開発初期の限られた範囲で実現可能性を判断するため、新サービスやシステムの実現性についての判断が素早く行えます。

つまりPoCを導入することで、計画の長期化に発生する無駄なコストや工数を抑え、効率的なプロジェクト管理と資源の有効活用に役立ちます。

また、事前の検証により、事業の規模化を行う際の費用や工数の無駄も減らせます。

リスク削減

新規プロジェクトはどれだけ検討を行っても不確実な問題が起きる可能性があります。しかしPoCを事前に導入することで、リスク管理と無駄の削減に役立ちます。

実際の環境で製品やシステムを試験的に検証するプロセスにより、技術的な実現可能性や安定性、実用性を具体的に確認でき、無駄な資金や時間の投資を避けることが可能です。

さらに、現場からのフィードバックを取り入れることで、効率よく製品開発を進めることができます。

スムーズな意思決定

新規事業を立ち上げる場合、経営層や投資家などに事業が成功する見込みを定量的に示すプロセスが欠かせません。PoCを導入して技術的な検証結果と効果を示し、ユーザーのフィードバックを取り入れることで予想売上や利益指標の設定に活かせます。

つまり、PoCの結果は、経営層や投資家がプロジェクトの投資やリリースに関する判断材料にできるため、意思決定がスムーズかつ効率的になります。特に新技術の導入時には、PoCによる小規模検証が費用対効果と実現性の確認に役立ち、リスクの低減が図れます。

PoCを導入するデメリット

PoCを導入する際は、以下に注意することも重要です。

  • 情報漏洩のリスクがある
  • 検証回数によってはコストが増加する
PoCを導入するデメリット

情報漏洩のリスクがある

PoCを行い信頼性を確保するためには、セキュリティ意識の醸成とセキュリティ対策が欠かせません。PoC導入で検証中のデータやプロトタイプが競合他社に漏洩すると、新製品やシステムの成功の可能性が低下し、潜在的な被害が生じる可能性があります。

そのため、PoCを実施する際にはセキュリティ対策や機密情報の適切な取り扱いが重要です。

検証回数によってはコストが増加する

PoCの検証回数が増えると、検証コストも増えます。

不要な費用の増加を回避するためには、あらかじめ検証の目的を明確化することと、必要なプロセスを定義することが重要です。特に、PoCの目的が不明確なまま検証を進めると、より精度の高い検証結果やより良い効果を求めて検証を重ねてしまい、検証工数やコストの増加、担当者の負担が増えてしまう可能性があります。

PoCを実施する際の重要な5つのポイント

PoCを実施する際は、以下5つのポイントを踏まえて行いましょう。

  • 検証条件を可能な限り近づける
  • 小さくはじめる
  • 検証の基準を明確にしておく
  • PoCが目的にならないようにする
  • 外注する際は丸投げしない
PoCを実施する際の重要な5つのポイント

検証条件を可能な限り近づける

PoC導入時には、実際の運用条件に近い環境で検証を行うことが重要です。

これにより、正確なデータと問題解決能力が向上し、導入後の問題発生リスクが減らせます。もし検証場所の確保が難しい場合は、導入現場と同じ条件や要因を考慮して仮想環境を活用することも一案です。

また、PoCを複数回実施する場合は、検証条件を統一すると検証の客観性と精度が高められます。

小さくはじめる

PoCを行う際は、極力規模を小規模に抑えてコストをかけすぎない注意が必要です。大規模なPoCは失敗のリスクとコストの増大に繋がり、目的のずれを招く可能性もあります。PoCはシステムや技術の実現性を確かめることが最大の目的です。

そのためPoCを導入する際は、目的と効率を考慮してコストと時間を最小限に抑えることが重要です。

検証の基準を明確にしておく

PoC実施時は、検証基準の明確化が重要です。目標や要件、期待される結果を明確化しておくと、結果が整理しやすく問題点の発見にも活かせます。

また、結果の中で課題があればPDCAサイクルを回して改善を図るのにも有効です。

そのため、もしPoCを複数回実施する際には、対策前後の比較をしやすくするため一度決めた基準は途中で見直さず、成功するまで同じ評価内容で検証を続けるのがおすすめです。

PoCが目的にならないようにする

「PoC途中におけるスコープのずれ」「過度に詳細な技術検証を行う」「何を達成すべきかが不明瞭」「ステークホルダーの期待値とのずれ」などさまざまな背景により、PoCを行うこと自体が目的になることがあります。

そのため、PoCを実施する際には、目的を明確にして適宜確認することが大切です。また、利用するユーザー視点から検討し、開発者視点だけに偏らないように注意しましょう。

外注する際は丸投げしない

PoCを外部に委託する際は、外注先のスキルや経験を慎重に見極め、よいパートナーシップを築くことが大切です。。

外注先とのコミュニケーション不足や目的の共有不足は思わぬ問題を引き起こす可能性があります。外注先にはプロジェクトのビジョンと目的を明確に伝え、期待値の合意形成を怠らないようにすることも重要です。密に連携を図り透明性を保ちながら進行することも欠かせません。

PoCを進める際の4つのステップ

PoCを効率的に進めるために必要となる、4つのステップをご紹介します。

  1. 目的の明確化
  2. 具体的な検証方法や検証内容を確定
  3. 実証の実施
  4. 結果を評価

目的の明確化

PoCを進める前には、必ず目標を明確にする必要があります。何のために実施するのかを踏まえて、PoCで得たいデータや結果を事前に明確化し、関連するメンバーで共有を図りましょう。

PoCの実施計画には、検証項目、検証範囲、スケジュール、実施内容、調査体制、役割分担などが含まれます。目的と計画をはっきりさせることが、PoCを成功に導く基盤になるのです。

具体的な検証方法や検証内容を確定

PoCの成功には、検証方法と内容をユーザー視点から計画し、バイアスのない比較を重視することが必要です。以下の観点で具体的な検証方法や検証内容を検討しましょう。

  • 価値
  • 技術
  • 事業性

価値

PoCでは、新技術やサービスが顧客やユーザーに提供できる価値を検証します。

これには、顧客の課題や問題点の特定、解決策の提案、ベネフィットの評価が含まれます。価値の検証の観点では、技術だけでなく顧客ニーズを考慮し、持続的に価値が提供できるかを評価します。

技術

新技術の導入により、業務プロセスやデータ処理の変化や技術の実現性、問題点を特定します。技術の適用範囲や実現可能性、必要な効果や品質、具体的な仕様などを踏まえて、性能向上、スケーラビリティ、セキュリティ脆弱性の有無などを検証します。

事業性

PoCを通じて、新技術やサービスが事業的に成果を上げる可能性を検証します。事業性の検証では、開発・運用にかかる費用、費用対効果、市場適応性、競合分析、ROIなどの要因を評価します。

これにより、事業性を分析し、長期的な戦略を展開します。

実証の実施

実証を行う際は、環境の違いで生じる問題を減らすために、可能な限り実際の環境と同一の環境下で行うことが重要です。

また、対象範囲が幅広いプロジェクトの場合は、できるだけ立場が異なる複数の対象者に調査を行うことで、より客観的な結果やシステム導入後の具体的なイメージ獲得にも繋がります。実際に使ってもらった人や第三者からのフィードバックも有益な情報です。

結果を評価

PoCを行い得られたデータを元に、技術の実用性やリスク、費用効果を評価し、導入を検討します。

得られたデータを元に導入効果の判断を行い、成功した場合は本格的に推進し、そうでない場合は再評価や対策を検討します。最後に、検証結果を評価、実現性を分析して次のステップに進むかどうかを判断します。PoCでは、PDCAサイクルを繰り返すことが重要です。

PoCの活用事例

PoCは新技術の開発時にはもちろん、現場の課題解決や新サービスの創出などに活かされています。ここではPoCの具体的な活用事例を3つご紹介します。

PoCの活用事例

5Gを活用したトラック隊列走行(ソフトバンクとWPC)

ソフトバンクとWireless City Planning社は、2020年に2日間の実験で東名高速道路を時速約80kmで3台のトラックが20km隊列走行するPoCを行い、実験に成功しています。

隊列走行とは、先頭車両のみが有人運転を行い、後続車両は先頭車両の操舵や速度を追従する自動運転の技術です。トラックの隊列走行は、交通事故の削減や車速変化の減少による燃費向上、渋滞の緩和、運転負荷軽減などさまざまな効果が期待されています。 

PoCの導入により、5Gの車両間通信で位置情報や速度情報、操舵情報などを共有して車間距離や操舵の制御を行うことや、トンネルを含む試験区間で安定して走行できることが検証されました。

参考:5Gの車両間通信を活用して、新東名高速道路で車間距離10mのトラック隊列走行に成功

勤務シフトを自動作成(日立製作所とKDDI、KDDIエボルバ)

KDDIエボルバとKDDI、日立製作所は、量子コンピューティングに関わる技術を用いて勤務シフトを作成する計算手法を確立し、KDDIエボルバの北海道地区事業所に在籍する約100名を対象に1カ月分の勤務シフトを作成しました。

勤務シフトを作成する際は、シフトの定義やスタッフの状況、時間帯ごとの必要人員数、スタッフの希望など20項目を超える複雑な条件を考慮して調整を行うため、作成に多くの時間がかかります。

KDDIと日立製作所がもつ量子コンピューティングに関わる計算技術や勤務シフト最適化ソリューション技術や知見を共有し、実勤務に適用できるようPoCを行いました。これにより手動で11時間以上を要していたシフト作成にかかる工数が約5時間と半減できました。

参考:量子関連技術で勤務シフト作成時間を5割超短縮、業務実証に成功

有毒ガス発生の有無をリアルタイム監視(秋田県仙北市とアステリア)

秋田県仙北市とアステリア社は、モバイルデータ活用サービス「Platio(プラティオ)」で制作した「温泉地ガス検知アプリ」の実証実験を約1か月間実施しました。

温泉地では防災対策として分湯槽に行き人力で硫化水素の有毒ガスの検知を行っていました。これに対し、温泉地にIoTセンサーを導入することで、有毒ガスである硫化水素の濃度を遠隔地からでもリアルタイムに監視できる仕組みを開発したのです。

いつでも安全に情報を管理できるのはもちろん、データがクラウドに蓄積されていくため、今まで見過ごされていた小さな変化が明確化できるため、現場の改革推進にも役立ちます。

参考:温泉地での防災対策として「温泉地ガス検知アプリ」の実験を開始!

まとめ

PoCとは、新しい技術や概念、理論が実現できるのかどうかを事前に検証を行うことです。PoCを導入すると、コストや労力、リスクが事前に把握できるほか、経営層の意思決定にも役立ちます。

ここまで解説したとおり、PoCの導入には検討すべきことが多くあります。もし、効率的にPoCを導入したいには、PoC導入のプロに依頼ができるエッジワークにお気軽にご相談ください。

エッジワークについて詳しくはこちら

DX

関連記事